腸内環境を整えて、お通じを良くしようという話はよく聞きますよね。ここ最近は、腸内環境についてさまざまな研究が進んでおり、特定の腸内細菌が肥満に関わっている可能性や、腸内細菌のバランスが肥満や糖尿病に関わっている可能性も示唆されています。ヤセ菌といわれている菌の種類、ヤセ菌をどうやって増やすのかについて解説します。
ヤセ菌って何?
腸内細菌の中でも肥満や生活習慣病と関係している菌や、痩せている人の腸内に多く存在している菌が発見されています。今回はその中で2種類の細菌を紹介します。
アッカーマンシア菌(Akkermansia muciniphila)
ヒトや動物の腸管に常在している嫌気性グラム陰性菌で、抗肥満、抗糖尿病作用があるのでは、と注目されている細菌です。
アッカーマンシア菌は、腸内に大量に棲息する菌の一種で、健康な人の腸内細菌叢の1〜4%を占めるといわれています。
アッカーマンシア菌に関する研究
- アッカーマンシア菌は、個人差あることが分かっており、炎症でアッカーマンシアが減少する。糖尿病の人はそうでない人よりアッカーマンシア菌が少ない。
- 肥満者を対象にした研究で、アッカーマンシア菌が少ない群では、エネルギー制限をしても、この菌が多い群よりエネルギー制限の効果が薄い。
- アッカーマンシア菌が少ないと、空腹時の血糖値、血中のインスリン値、ウエスト周囲長の値が悪い。
- 肥満者がこの菌を摂取して、体重やインスリン抵抗性に改善があるかをみた研究では、生きた菌より、死んだ菌の方が効果があった。(サプリメントなどに応用しやすいのでは!と期待が集まっている)
- スポーツ選手と運動習慣のない人では、スポーツ選手の方が腸内に多様な細菌が存在しており、そのなかでもアッカーマンシア菌が増加している。
せっかくエネルギー制限しても、腸内環境によって、効果が変わってくるということですね。
クリステンセネラセエ菌
「腸内環境は遺伝するか」という研究で発見された菌
この菌は、「遺伝的な体質が腸内環境にも影響があるか」ということを研究した際に発見された細菌です。この研究では、一卵性双生児、二卵性双生児、それ以外、の3つの群に分けて、腸内フローラが調べられました。
結果、一卵性双生児が最も腸内フローラ構成が似ており、それに次いで二卵性双生児という結果がでたというものです。
双子だから同じ家庭で同じものを食べているからだと思う方もおられるかもしれませんが、この調査では、双子といっても、すでに別々に住んでおり、同じものを食べているというわけではないため、遺伝の要素が強いのではないかという結論が出ています。さらに、この研究でクリステンセネラセエ菌がもっとも遺伝に影響を受けているという結果が出ています。
クリステンセネラセエ菌が多い人は痩せている傾向
クリステンセネラセエ菌が多い双子では、痩せる傾向があったこと、クリステンセネラセエ菌を含むものを無菌マウス(腸内細菌をもっていないマウス)に移植すると、肥満を防ぐことができたことから、ヤセ菌として注目を集めています。
腸内環境が遺伝するということと、ヤセ菌がある可能性があることが分かった研究ですね。腸内環境が肥満に影響するということ、腸内環境が遺伝することを考えると、肥満が多少遺伝する可能性があるとも言えますね。(腸内環境の視点から見るとですが)
自分の腸内にヤセ菌を維持する方法
ヤセ菌の種類と存在が分かったところで、この細菌を自分の腸内に増やすには、どのような方法があるのでしょうか。
ヤセ菌のサプリメントはあるのか
ヤセ菌をサプリメントなどで摂取すれば、腸内にヤセ菌が増えて、痩せるのでは?と思いますよね。しかしアッカーマンシア菌やクリステンセネラセエ菌の入ったサプリメントなどは、調べたところ見つかりませんでした。
また、あったとしても、一般的にプロバイオティクスと呼ばれるような、腸内細菌自体を摂取して腸内環境を整える場合、多くが、「通過菌」といわれ、腸内に定着しにくいため、継続的に摂取する必要があります。
ヤセ菌のエサ(水溶性食物繊維、オリゴ糖、ポリフェノール)を摂取する
アッカーマンシア菌は水溶性食物繊維、オリゴ糖、ポリフェノールをエサにして増えることができます。
水溶性食物繊維
食物繊維とは、”食べ物の中に含まれ、人の消化酵素で消化することのできない物質。整腸作用など身体の中で有用な働きをすることが注目され、第6の栄養素といわれることもある。
e-ヘルスネット(厚生労働省)
e-ヘルスネット
食物繊維は水溶性と不溶性に分けることができます。
不溶性食物繊維 : ごぼう、大豆など(便量を増やして便の排泄を促進する
)
水溶性食物繊維 : 海藻、キャベツなどの野菜類
どちらの食物繊維も身体にとって大切ですが、日本人は食物繊維の摂取が不足しているといわれています。水溶性食物繊維を摂取するには、意識的に野菜や海藻を摂取することですが、手っ取り早く摂取したいのであれば、サプリメントとしても多く販売されているので、ドラッグストアなどで確認するとよいです。
グアーガム分解物(PIGG)
ある研究では、2型の糖尿病の人が、水溶性食物繊維の一種であるグアーガム分解物(PIGG)を摂取することで、アッカーマンシア菌が増加しました。グアーガム分解物については、他の記事で詳しく記載していますが、いろいろな点から腸内環境改善に有用な水溶性食物繊維として注目されています。https://eiyoninaru.com/cyounaikankyou/
オリゴ糖
糖質のうち、最小単位である単糖が2個から10個程度結びついたもので、小糖とも言う。
低消化性(低エネルギー)で、整腸作用が腸内細菌を増やす作用などが知られている。
e-ヘルスネット(厚生労働省)
オリゴ糖と食物繊維は、仲間のような存在で、オリゴ糖は糖が2-10個程度結びついたものとありますが、糖が10個以上結びついたものを食物繊維と呼んでいるので、かなり近い存在であることが分かります。
オリゴ糖を多く含む食品は、野菜類(玉ねぎ、 ねぎ、アスパラガス、ブロッコリー、カリフラワー、ごぼう、アボカドなど)大豆などの豆類、バナナなどがあげられますが、機能性表示食品やサプリメントなども多く販売されています。
ポリフェノール
ポリフェノールは、一般的にはプレバイオティクスには当てはまりませんが、ポリフェノールの多くは大腸で、腸内細菌によって代謝されると考えられています。
ポリフェノールが腸内細菌の機能性を向上させるという研究もあり、アッカーマンシア菌においては、ポリフェノール摂取がアッカーマンシア菌を増やすという結果があります。
ポリフェノールを多く含む食品には、ワイン、コーヒー、紅茶、緑茶、ココアなどがあります。
ポリフェノールは水溶性なので、たくさん摂取しても、尿と一緒に出ていってしまうので、ちょこちょこ摂取するのがおすすめです(3.4時間おきくらい)。
水溶性食物繊維、オリゴ糖、ポリフェノールは、一般的な食事でも十分摂取可能ですし、サプリメントなども豊富なので、ドラッグストアで簡単に購入できますね。
ヤセ菌だけじゃない!腸内環境全体が肥満に影響する
これまで、「ヤセ菌」について解説してきましたが、肥満と腸内環境に関する研究は多くあり、ヤセ菌だけでなく、腸内環境全体のバランスが、肥満や生活習慣病に関わっていることがわかってきています。
「肥満」と「痩せ」では腸内細菌バランスが違う
人の腸内には多様な腸内細菌が住んでいますが、人の腸内のほとんどが、ファアーミキューテスとバクテロイデーテスというグループ(門)に分けられます。(セミがカメムシ科セミ目などと分けられるように、腸内細菌も界、門、などと分けられています)
この2つグループの腸内細菌の「バランス」が、痩せている人と肥満者では違ってきます。
痩せている人 | ファーミキューテス:バクテロイデーテス | 7:3か6:4程度 |
肥満者 | ファーミキューテス:バクテロイデーテス | 9:1程度 |
太っていると、ファーミキューテスの割合が多くなりますが、ダイエットをすると、この腸内細菌の割合が、瘦せている人に近づいていく(9:1だったものが、7:3に近づく)という研究があります。
腸内のほとんどを占めている2グループの細菌の「バランス」が肥満に関わっているということは、腸内環境と肥満には関わりがあると考えられます。
肥満マウスの便を無菌マウスに入れると太る
マウスの研究ではありますが、肥満マウス(レプチンが作れないようにしたマウス)と、通常のマウスそれぞれの便を、腸内が無菌にしてあるマウスに移植すると、肥満マウスの便を移植されたマウスは太るという研究があります。
腸内環境が違うという条件だけで太ってしまうということが示唆される研究です。これが人間にも当てはまるのならば、腸内環境を整えずに、ダイエットするのは、効率が悪いように感じます。
腸内環境を整えるには
ヤセ菌や腸内細菌バランスについてお話しましたが、どちらともに共通して、腸内環境を整えることが、「ヤセ菌の維持、増殖」「痩せ型の腸内細菌バランス維持」につながり、肥満や非効率的なダイエットを防ぐことが分かりました。
では腸内環境を整えるには、どうすればよいのでしょうか。
プロバイオティクス/プレバイオティクスの摂取
腸内環境を整える!というのはよく言われていることであり、プロバイオティクスやプレバイオティクスについての詳しい解説は、他のサイトにお任せすることにして、説明は簡単にします。
プレバイオティクス | 腸内細菌自体を摂取 | 乳酸菌、ビフィズス菌、酪酸菌など |
プレバイオティクス | 腸内細菌のエサを摂取 | 食物繊維、オリゴ糖など |
乳酸菌やビフィズス菌など、腸内に住む細菌自体を摂取することを、プロバイオティクスといいます。ヨーグルトや乳酸菌飲料などもこれにあたります。
プレバイオティクス :腸内細菌のエサをとる **:**食物繊維、オリゴ糖など)
乳酸菌やビフィズス菌など、腸内に住む細菌自体を摂取することを、プロバイオティクスといいます。ヨーグルトや乳酸菌飲料などがこれにあたります。
水溶性食物繊維やオリゴ糖など、腸内細菌のエサになるものを摂取することをプレバイオティクスといいます。これらは、上記の通り、アッカーマンシア菌のエサにもなるので、腸内環境を整えてダイエットしたい方は摂取したいところです。
脂肪の多い食事は腸内細菌叢を乱す
脂質はカロリーが高いため、とり過ぎることは、ダイエットには向きませんが、腸内環境にも悪影響があります。
脂肪の多い食事を摂ると、ビフィズス菌など腸内にとって良い菌(善玉菌)が減り、腸内細菌叢が乱れます。善玉菌が減ると、軽い慢性的な炎症が続きます。
腸内環境の乱れからくる慢性的な炎症がメタボリックシンドロームや糖尿病の一因になっているのでは?という研究があり、脂質の多い食事を続けることは、エネルギー過多による肥満だけでなく、腸内環境の面からも肥満に近づく可能性があります。
ダイエットだ!とエネルギーばかり意識して、食事の内容や質をおろそかすると、せっかく頑張っても、うまくいかないかも!?
だからといって、脂質の過剰な制限はNG×です!必須脂肪酸などの身体に必要な脂肪が不足することがあります。また、脂肪は便の通りを良くする効果もあるので、脂質を過剰に制限すると、便通が悪くなって結局、腸内環境が悪化する可能性があります。
まとめ
- ヤセ菌(アッカーマンシア菌)は食物繊維やオリゴ糖、ポリフェノールで増やす
- 腸内にヤセ菌が少ないと、エネルギー制限をしても効果が薄い
- 肥満者は腸内細菌バランスが悪い
- 脂質の多い食事は腸内細菌の面からもよくない
腸内細菌叢を整えれば、ヤセ菌もすみやすい大腸になるし、腸内環境もよくなるということが分かりました。カロリー制限や運動を頑張っているのに、ダイエットがうまくいかない。という方は、腸内環境を整えるとよいかもしれません。腸内環境を整えることは、メリットばかりで、悪い点がないので、ダイエットとセットで意識すると、健康的に痩せられるのではないかと思います。
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