高カロリー輸液のみで栄養を補給している場合、食事でいえば何mgのビタミンが摂取できているのか知りたいと感じることもあると思います。そこで、輸液におけるビタミンKはどれにあたるのか、輸液のビタミンKの基準量はいくらなのか、実際に使われている高カロリー輸液には何mg含有されているのか紹介していきます。
高カロリー輸液【ビタミンK】は何μg?
高カロリー輸液の添付文書からビタミンKを探す場合、フィトナジオン(ビタミンK1)またはメナテトレノン(K2)がビタミンKにあたります。
エルネオパNFには2000mlで150μg含有しています。
輸液のビタミンK量は何が基準?
輸液のビタミン量の基準は、2000年にFDA(米国食品医薬品局)が発出したFDA2000処方が広まっており、これに準拠し作られたものが多いです。また、微量元素に関しては米国のA.S.P.E.N.(米国静脈経腸栄養学会)のガイドラインや、欧州のESPEN(欧州臨床栄養代謝学会)のガイドラインを準拠し作られていることが多いです。
FDA2000処方ではビタミンKは150μgとなっています。よく使われる高カロリー輸液である、エルネオパNFとワンパルもFDA2000処方に準じたビタミンを配合しています。
ビタミンKの食事摂取基準
食事摂取基準ではビタミンKの目安量は成人男性で150μgとなっており、FDA2000処方と同量です。
ビタミンKの不足は骨折のリスクを増大させることが報告されていますが、十分な科学的根拠が得られていないため、目標量は設定されず、目安量となっています。
納豆とビタミンK
納豆はビタミンKの含有量が多く、ワルファリン服用中は納豆禁止となります。日本人は納豆をよく食べる習慣がありますが、納豆を食べなくても、ビタミンK欠乏による明らかな健康障害が認められていないことから、目安量は納豆を食べていない人のビタミンK摂取量の平均値になっています。
ビタミンKの機能
・肝臓においてプロトロンビンやその他の血液凝固因子を活性化して血液の凝固を促進する。
・オステオカルシン(ビタミンK依存性に骨に存在するたんぱく質)を活性化し、骨形成を調節する。
・MGP(ビタミンK依存性たんぱく質)の活性化を介して動脈の石灰化を抑制する。
消化、吸収、代謝
ビタミンKは食事から摂取する他に、腸内細菌がつくるものと、組織内でフィロキノンから酵素的に変換し生成するメナキノン-4があります。これら体内でつくられるビタミンKが必要量をどの程度満たしているかは分かっていませんが、60㎏の人が60μg/日(体重1kg当たり0.8-1.0μg/日)程度の摂取を続けると、潜在的なビタミンK欠乏症に陥る危険性があるので、体内で作られるビタミンKのみで生体の需要を満たすことはできないとされています。
欠乏症
・血液凝固が遅延するとされていますが、通常の食生活では、ビタミンK欠乏症は発症しないとされています。
過剰症
・メナジオン(ビタミンK3)は大量に摂取すると毒性が認められる場合がありますが、フィロキノン(ビタミンK1)、メナキノン(ビタミンK2)は大量摂取しても毒性は認められていません。
・耐容上限量は設定されていません。日本では、メノキノン-4が骨粗鬆症治療薬として45mg/日の用量で処方されていて、安全に問題がないことが証明されています。また、この量を超えて服用した場合でも副作用が発生した例は今までないので、耐容上限量は設定されませんでした。
さらに詳しく知りたい方は下記リンクから日本人のための食事摂取基準2020年度版をご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
エルネオパ→エルネオパNF、ビタミンKの減量
エルネオパは2000mlでビタミンKが2000μg含有していましたが、2017年にエルネオパNFが発売され、エルネオパNFの方はビタミンKが150μgに減量されました(約1/13に減量)。他にも鉄が減量されています。
エルネオパのビタミン処方は、AMA1975処方を根拠にしたものでしたが、AMA1975処方にかわって、2000年にFDAが新たに発出したFDA2000処方が広まり、ビタミンB1、B6、C、葉酸、ビタミ ンKおよび鉄の処方を改良したエルネオパNFが開発、販売されています。
ワルファリン服用患者にはビタミンKは慎重に投与されることが望ましいため減量されているという点もあります。
ワルファリンと納豆の関係
ワルファリンが処方された場合、納豆とクロレラが禁止されます。ほうれん草などもビタミンKが多い野菜ですが、なぜでしょうか。
クロレラは元々ビタミンKが多いだけでなく、ジュースなどで多量に摂取することがあるため、注意されています。
納豆は、上記の通り、ビタミンKが多いだけでなく、腸内細菌によって産生されるビタミンKもあり、納豆を食べた後も、数日その効果があるといわれています。そのため、ワルファリンの作用(血液をサラサラにする)を弱めてしまう可能性があるため、禁止することが多いです。ビタミンKは食品の含有量だけでなく、腸内産生されるという点にも注意が必要ですね。
それぞれの輸液の内容量
それぞれの輸液などの添付文書のフィトナジオンやメナテトレノンの欄を確認すると、ビタミンK量が確認できます。ここでは、高カロリー輸液のエルネオパNFとワンパルのビタミンK量を表にしました。
エルネオパNF1号1000 | エルネオパNF1号1500 | エルネオパNF1号2000 | エルネオパNF2号1000 | エルネオパNF2号1500 | エルネオパNF2号2000 | |
mg | 0.075 | 0.1125 | 0.15 | 0.075 | 0.1125 | 0.15 |
μg | 75 | 112.5 | 150 | 75 | 112.5 | 150 |
ワンパル1号 800 | ワンパル1号 1200 | ワンパル2号 800 | ワンパル2号 1200 | |||
mg | 0.075 | 0.1125 | 0.075 | 0.1125 | ||
μg | 75 | 112.5 | 75 | 112.5 |
エルネオパNFは、2000mlで各種栄養素が補給できる計算になっているので、エルネオパNF(1号2号とも)2000mlでビタミンKが150μg補給できます。ワンパルは1600mlで1日に必要とされる熱量、アミノ酸、ビタミン及び微量元素を補給できる輸液になっているので、ワンパル(1号2号とも)1600mlで150μg摂取できるようになっています。
まとめ
・輸液の添付文書において、ビタミンKはフィトナジオン(ビタミンK1)またはメナテトレノン(K2)で記載されている。
・食事と単位は変わらず、食事摂取基準の目安量とFDA2000処方の基準量も同じである。
・FDA2000処方が出てからビタミンKは減量されている。
以上のようなことが分かりました。患者様の輸液管理に役立てば幸いです。他ページにて、他の栄養素についても記載していますので、ご覧下さい。
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