患者さんの下痢や便秘に悩む医療従事者は、多くおられると思います。よく使用されている整腸剤の種類(ミヤBMなど)と、相乗効果を期待するプレバイオティクス(グアーガム分解物(PIGG)など)について解説します。整腸剤が出ているが、なかなか良くならない患者さんに、栄養士からできる具体的な提案について紹介します。
整腸剤の菌種
まず、よく使用される整腸剤とその菌種について紹介します。
分類 | 商品名 | 耐性 |
ビフィズス菌 | ラックビー®微粒N ラックビー®錠 ビオフェルミン®錠剤 など | |
耐性ビフィズス菌 | ラックビー®R散など | ペニシリン系、セフェム系、 アミノグリコシド系、マクロライド系 ホスホマイシン系抗菌薬、ST合剤 |
乳酸菌 | ビオフェルミン®配合散 など | |
耐性乳酸菌 | ビオフェルミン®R散 ビオフェルミン®R錠 エンテロノン®-R散 など | ペニシリン系、セフェム系、 アミノグリコシド系、マクロライド系 テトラサイクリン系抗菌薬 |
酪酸菌(宮入菌) | ミヤBM®など |
ビオフェルミン®は錠剤と配合散で含有菌種が異なるので注意が必要です。
整腸剤と一言でいっても、含有菌種が異なったり、最後にRが付くと、抗菌薬に耐性があるなど、違うため、それらを考慮して整腸剤が選択されています。
ビフィズス菌と乳酸菌の違いは何?
乳酸菌、ビフィズス菌とは
乳酸菌とは、発酵によって糖から乳酸をつくる嫌気性の微生物の総称。腸内で悪玉菌の繁殖を抑え、腸内環境を整える。
ビフィズス菌とは、乳酸菌の一種で、主に人間や動物の腸内に存在する代表的な善玉菌。整腸作用だけではなく、病原菌の感染や腐敗物を生成する菌の増殖を抑える効果があると考えられている。
厚生労働省 e-ヘルスネットより
つまり、ビフィズス菌は乳酸菌の1種で、どちらも、糖(ブドウ糖、乳糖など)から発酵によってエネルギーを得て、乳酸をつくる細菌であるということが分かります。
乳酸菌、ビフィズス菌の違い
ビフィズス菌が乳酸と違う点は、以下の2点です。
・乳酸だけでなく、酢酸もつくる。(2種類の酸を産生する) ・嫌気性である。(乳酸菌は酸素の有無は関係ない)
このため、ビフィズス菌は乳酸菌の仲間ですが、別の種類の細菌として扱われています。
乳酸菌とビフィズス菌の種類
乳酸桿菌 | 乳酸球菌 | ビフィズス菌 | |
菌の形 | 棒状 | 球状 | V字・Y字状 |
属 (略) | ラクトバチルス(L.) | ストレプトコッカス(S.) エンテロコッカス(E.) ラクトコッカス(Lc.) | ビフィドバクテリウム(B.) |
L.なら乳酸桿菌(棒状)
B.ならビフィズス菌
それ以外なら大抵、乳酸菌の球状という感じです
酪酸菌とは?
プロバイオティクスの医薬品でよく使用されるミヤBM®が酪酸菌(宮入菌)の薬です。整腸剤としてよく使用され、「とりあえずミヤBM®」と使用されることも多いです。
ミヤBM®の特徴は?
ミヤBM®の主成分である酪酸菌は、芽胞を形成するため抗菌薬の影響を受けにくいとされています。CD腸炎などで、抗菌薬を使用する場合に、下痢を予防、改善するためによく選択される整腸剤です。抗菌薬を使用しない場合でも、下痢、便秘の患者さんによく処方される整腸剤です。
ミヤBM®とグアーガム加水分解物(PHGG)
ミヤBM®と相性の良いといわれているプレバイオティクスに、グアーガム加水分解物(PHGG)(以下グアーガムに略)があります。
上記のリンクがミヤMB®とグアーガムが相性が良い可能性を示す論文です。ミヤBM®の販売元提供の勉強会でも、ミヤBM®とグアーガムの相乗効果についてお話を伺ったことがあります。
当院でも、下痢が続く患者さんに、ミヤBM®を処方するも、改善が見られなかった患者さんにグアーガムを提供すると、すぐに下痢が改善された例が多くあります。
グアーガム加水分解物(PHGG)の提供方法
当院では、サンファイバーを主に使用しています。https://www.taiyo-medi.com/product/p0023.htm
水やお茶に溶かすことで、経口、経腸どちらでも使用でき、お茶に混ぜても味がほとんど変わらないため、使いやすく重宝しています。経腸栄養剤にもグアーガム含有の栄養剤は多数あるため、経腸から栄養補給する患者さんで、栄養剤の変更が可能ならば、グアーガム含有の栄養剤へ変更する方が、サンファイバー+経腸栄養剤よりコストが抑えられるかもしれません。
グアーガム分解物は腹痛、腹部膨満感が少ない
グアーガム分解物は、摂取後、腹痛や腹部膨満感が少なく使いやすいというイメージがあります。これには、他の食物繊維と比べると以下のような違いがあるようです。
・平均分子量が大きい(浸透圧性の下痢が起こりにくい)
・発酵性が高いが、発酵速度は穏やかである。(フラクトオリゴ糖は(フルクトース、イヌリンなど)発酵が早いのでガスが出やすい)
グアーガムで腹痛や腹部膨満感を感じることがある理由
稀ですが、下痢や便秘の患者さんにグアーガム分解物を提供すると、用量内であっても、腹痛やおなかの張りを訴えられることがあります。
これは、腸内細菌叢が乱れている状態で、グアーガム分解物を摂取すると、グアーガム分解物を資化する(利用する)菌は増加しますが、短鎖脂肪酸まで発酵する腸内細菌叢が整っていないため、水素ガスなどが発生しやすくなり、腹痛やおなかの張りが発生している状態です。
このような場合は、いったん中止し、症状が消失してから、少量から開始して、徐々に腸内環境を整えていくとよいです。
善玉菌によってエサになるプレバイオティクスは違う?
善玉菌と呼ばれる菌には、乳酸菌やビフィズス菌、酪酸菌などありますが、菌種によってエサになるプレバイオティクスは異なります。酪酸菌はグアーガムと相性がよいことをお伝えしましたが、善玉菌全体で考えると、食物繊維より、オリゴ糖がエサになる場合の方が多いといわれています。
食物繊維とオリゴ糖の違い
食物繊維もオリゴ糖もどちらも、糖が鎖のように連なったものです。
- 食物繊維:10個以上
- オリゴ糖:2~10個
この2つは、長さが違うだけです。人間や有害菌はこれらを分解できませんが、善玉菌は分解し、エサにすることができます。そのため、食物繊維やオリゴ糖を摂取することで、善玉菌を増やし、腸内環境を改善することができます。
ビフィズス菌のエサ
ビフィズス菌は、グアーガムを直接的には資化しないと(利用しない)されています。(グアーガムを他の細菌が利用することで腸内環境が改善することで、ビフィズス菌にも良い影響を与える可能性はあります)ビフィズス菌含有の整腸剤の相乗効果を期待したプレバイオティクスなら、オリゴ糖の方が効果を発揮する可能性があります。
人の糞便にフラクトオリゴ糖を入れて、6時間後にみてみると、50%が短鎖脂肪酸に変化したという研究があります。これは腸内細菌が、フラクトオリゴ糖をエサとして、短鎖脂肪酸が作られたということを意味しています。
オリゴ糖含有の食品
オリゴ糖含有の食品は一般にも多く出回っています。病院で補助食品として提供する場合には、オリゴワンがよく使用されていますhttps://www.hb-life.jp/products/p_oligo.html
シロップのため、水分に混ぜて、経口、経腸どちらでも使用しやすいです。
オリゴ糖は1日3gで整腸効果がみられるとされていますが、摂取をやめると2週間で、もとに戻るといわれています。続けて摂取することで、効果が持続するということを覚えておく必要があります。
まとめ
整腸剤の菌種と、それぞれの菌のエサ(プレバイオティクス)について解説しました。
- ミヤBM®とグアーガム加水分解物(PHGG)は相性がよい
- ビフィズス菌はオリゴ糖の方が効果がある可能性あり
- 直接的ではなくと、オリゴ糖・食物繊維は腸内環境に好影響を与える
オリゴ糖、食物繊維どちらとも、摂取することで効果が薄かったとしても、身体にとってマイナスの働きをすることは少ないため、その点は安心して使用できると感じます。下痢・便秘の患者さんに、栄養士から提案できることが増えるきっかけになればうれしいです。
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