輸液の微量元素は基本的にモル(mol)で記載されています。ここでは、molからmgへ変換する方法(Mnはμmolなのでそこから計算します)と、実際の高カロリー輸液(エルネオパNFやワンパル)には何mgのマンガンが含有されているのか紹介していきます。
モル(mol)からmgに変換!高カロリー輸液のマンガン(Mn)は何mg?
まず高カロリー輸液の添付文書を確認します。マンガンは元素記号ではMn(分子量は54.94)なので、微量元素の欄のMnを確認します。エルネオパNFを例に上げると、2000mlで1μmolと記載されています。
molからmgへ単位変換する
手順は以下の通りです。
① μmol → mol へ変換する
② mol → mg へ変換する
① μmol → mol へ変換する
エルネオパNF1000mlを例に考えてみましょう。
エルネオパNF1000mlでMnは0.5μmolです。まずμmolをmolに変換します(①の式)。
0.5μmol = 0.0000005mol
エルネオパNF1000mlではMnは0.0000005molであるということがわかります。ここからいよいよmolをmgへ単位変換していきます。
② mol → mg へ変換する
エルネオパNF1000mlで約0.0275mgのマンガン(Mn)が摂取できるということですね。
エルネオパNFは2000mlで1日の栄養素がとれるように作られているので、エルネオパNF2000mlで考えると、0.0275×2=0.055mgのマンガン(Mn)が体内に入ることになります。
輸液のマンガン(Mn)量は何が基準?
輸液の微量元素量は基本的にESPENのガイドラインまたは、A.S.P.E.N.のガイドラインが基準になっています。ESPEN2009ではMnは0.2~0.3mgとなっています。エルネオパNF、ワンパルともに、ESPENのガイドラインに基づいたMn量になるよう設定されています。
食事摂取基準のマンガン(Mn)の目安量
食事摂取基準ではマンガンの目安量は男性18歳以上で4mg、女性15歳以上で3.5mgになっています。詳しいことは日本人の食事摂取基準を読んでいただくとして、マンガン欠乏症は通常の食生活では起こらないと考えられています。
しかし、静脈栄養のみで栄養を補給している患者さんにおいては欠乏する可能性があり、補給する必要のある栄養素とされています。動物実験においてマンガン欠乏症は、骨の異常、成長障害、妊娠障害などがあります。
マンガンの消化管からの吸収率は3~5%程度とされ、吸収率の低い栄養素であり、大半が糞中に排泄されます。そのためマンガン出納を正確に検討することが難しいため、必要量を求めることが困難であり、目安量として設定されています。
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
完全静脈栄養患者とマンガン
マンガンは完全静脈栄養施行患者において、補給しなければ、不足の可能性がありますが、逆に過剰摂取となる場合もあります。完全静脈栄養によって2.2mg/日のマンガンを23ヵ月間投与された症例では、血中マンガン濃度の有意な上昇とマンガンの脳蓄積が生じ、パーキンソン病様の症状が現れたそうです。マンガンは腸管での吸収率が低いため、通常の食事では過剰摂取について、さほど意識されませんが、静脈栄養の場合は血管にダイレクトに入るため、過剰摂取についての意識が必要だと考えられます。もちろん、微量元素の入っていない輸液を使用する場合はマンガンの不足についても注意が必要です。
高カロリー輸液のマンガン(Mn)量
高カロリー輸液であるワンパル(陽進堂)とエルネオパNF(大塚製薬)のマンガン(Mn)の含有量は以下の通りです。
エルネオパNF1号1000 | エルネオパNF1号1500 | エルネオパNF1号2000 | エルネオパNF2号1000 | エルネオパNF2号1500 | エルネオパNF2号2000 | |
Mn(μmol) | 0.5 | 0.75 | 1 | 0.5 | 0.75 | 1 |
Mn(mol) | 0.0000005 | 0.00000075 | 0.000001 | 0.0000005 | 0.00000075 | 0.000001 |
Mn (g) | 0.00002747 | 0.000041205 | 0.00005494 | 0.00002747 | 0.000041205 | 0.00005494 |
Mn (mg) | 0.0275 | 0.0412 | 0.0549 | 0.0275 | 0.0412 | 0.0549 |
ワンパル1号 800 | ワンパル1号 1200 | ワンパル2号 800 | ワンパル2号 1200 | |||
Mn(μmol) | 0.5 | 0.75 | 0.5 | 0.75 | ||
Mn(mol) | 0.0000005 | 0.00000075 | 0.0000005 | 0.00000075 | ||
Mn (g) | 0.00002747 | 0.000041205 | 0.00002747 | 0.000041205 | ||
Mn (mg) | 0.0275 | 0.0412 | 0.0275 | 0.0412 |
エルネオパNFは、2000mlで各種栄養素が補給できるよう設計されているので、エルネオパNF(1号2号とも)2000mlでMn:0.06mg補給できます。ワンパルは1600mlで1日に必要とされる熱量、アミノ酸、ビタミン及び微量元素を補給できる輸液になっているので、ワンパル(1号2号とも)1600mlで0.07mgとなっています。
まとめ
マンガンのmol→mgへの変換方法についてまとめました。
上記の方法を使えば、他の輸液や微量元素補給でも計算することが可能です。
紹介したふたつの高カロリー輸液のマンガン含有量はESPEN2009の示したマンガン量より少ない量でしたが、マンガンを含んでいる二つの高カロリー輸液(エルネオパNF,ワンパル)とも大きな差はないことが分かります。
また、完全静脈栄養患者さんにおいては、長期間マンガンを全く補給しないこと、逆に過剰に投与することへの注意が必要な栄養素であることも分かりました。長期で高カロリー輸液が行く場合や、この高カロリー輸液にはどれだけマンガンが入っていたんだったっけ?と確認するときの参考になれば幸いです。https://eiyoninaru.com/yueki-hennkan-zn/
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